休職による自然退職が無効!? ~丙川商店事件(京都地判令3・8・6)~
東京・銀座の社会保険労務士法人Aimパートナーズです!
今回は会社が休職期間満了による自然退職で訴えられたケース(丙川商店事件)をご紹介いたします。
休職の詳細は こちら!
【目次】
◆事件の概要
◆判決の争点
◆判決の判断
◆まとめ
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◆事件の概要
社員が適応障害等を発症したとして、平成29年11月2日から休職していました。平成30年7月17日付け主治医の診断書では適応障害・急性ストレス反応と診断され、勤務不可能であり、3カ月の自宅療養が必要であると記載されていました。社員は平成31年1月16日に出社したが、会社は就労を拒絶しました。その後、会社は平成30年8月2日付けで休職期間満了による退職扱いを主張し(以下「本件各退職扱い」)、また、令和元年9月30日到達の会社準備書面により、予備的に令和元年10月30日付けで解雇するとの意思表示(以下「本件各解雇」)をしました。これに対し、本件各退職扱いおよび本件各解雇はいずれも無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案です。
◆判決の争点
①休職規定
②明白な誤記
③労働者保護の見地
◆判決の判断
①第17条 従業員が次の各号に該当した場合は休職を命ずる。
1 「業務上」の傷病により欠勤し3カ月を経過しても治癒しないとき(病気休職)
※通常病気休職は業務外の傷病による事由と規定する
本件就業規則17条1号は、休職事由の一つとして、文言上、「業務上の傷病により欠勤し3カ月を経過しても治癒しないとき(療養休職)」と規定している。一方で、本件訴訟において、社員の各休職事由につき、「業務上の傷病」であるとは主張しておらず、「業務外の傷病」として取り扱われることについて当事者間に争いはなかった。
②会社は、労働基準法上、業務上の傷病により休職中の従業員を退職させることはできないから、本件就業規則17条1号に「業務上の」とあるのは明白な誤記であり、正しくは「業務外の」であるとして、原告らに同号が適用されると主張する。確かに、業務上の傷病の場合に休職中の従業員を解雇することは労働基準法19条に反し、強行法規違反として無効の規定となるから、本件就業規則17条1号に「業務上の」と記載されているのは、同規則作成時において、何らかの誤解等があった可能性は否定しきれない。また、一般に、業務外の傷病に対する休職制度は、解雇猶予の目的を持つものであるから、本件就業規則17条1号を無効とはせずに、「業務外の傷病」であると解釈して労働者に適用することは、通常は労働者の利益に働く解釈であると考えられる。
③本件においては、上記規定による休職期間満了後も引き続き会社から休職扱いを受けてきた社員が、上記休職期間満了により既に自然退職となっていたか否かが争われている。このような場面において、労働者の身分の喪失にも関わる上記規定を、文言と正反対の意味に読み替えた上で労働者の不利に適用することは、労働者保護の見地から労働者の権利義務を明確化するために制定される就業規則の性質に照らし、採用し難い解釈であるといわざるを得ない。したがって、本件就業規則17条1号を「業務外の傷病」による休職規定であるとして、これをX社員に適用することはできないというべきである(本件各退職扱いは無効である)。
◆まとめ
会社は「業務上」という記載は明らかな誤記であり、正しくは「業務外」であると主張しましたが、労働者保護の見地から社員の不利な解釈を適用することは出来ないとして本件退職扱いは無効となりました。文言の誤記で本来自然退職が有効かもしれなかった事案が、誤記によってひっくり返ってしまったのは非常に恐ろしいことです。
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